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2022.05.09

【コラム】薬剤部より~漢方彩々 2022年 立夏~

 桜が散って道路脇のツツジもそろそろ見頃を過ぎ、緑萌ゆる季節となりました。皆さま今年のゴールデンウィークは久しぶりに羽を伸ばすことができたでしょうか。最長で10連休になる最終日の58日は「母の日」が重なるということで、これまでなかなか会えなかったご両親のもとへ帰省された方や、お母様へ贈り物をされた方もいらっしゃるかもしれません。

 母の日に贈るお花と言えばカーネーションが定番中の定番かと思いますが、最近は他にバラやガーベラ、アジサイ、シャクヤクなども人気のようです。
 では、シャクヤクのお花と聞いてぱっと思い浮かべることができた方はどのくらい居られるでしょうか。名前は耳にしたことがあるけれど実際の花までは……という方も多いのではないかと思います。

と言うわけで今号は「立てば芍薬 座れば牡丹」の句にも詠まれた美人のお花にちなんだお話です。

 

和名:ボタン
学名:Paeonia suffruticosa
中国原産、ボタン科ボタン属の落葉低木。
初夏、「百花王」の名にふさわしい大輪の豪華な花が咲く。
つぼみの先が少しとがっているのが特徴。

 

 

和名:シャクヤク
学名:Paeonia lactiflora
東アジア原産、ボタン科ボタン属の多年草。
初夏、ボタンに遅れて大輪の花が咲く。左写真のように、つぼみは丸い。
lactifloraは乳白色の花という意味だが現在はさまざまな園芸用品種が流通している。

 

 上記の慣用句、本来は「歩く姿は百合の花」と続き、百合もまた美しい花を咲かせる生薬のひとつではあるのですが、今回はスペースの都合で同じボタン科ボタン属の2種のみに絞ってお話させていただきます。

 

 シャクヤクとボタンは同科同属でどちらも美しい大輪の花を咲かせますが、最も大きな違いは上にもご紹介した通りシャクヤクが草本性の植物であるのに対して、ボタンは木本性である点です。花の付き方も、まっすぐに伸びた茎の先に花をつけるのがシャクヤク、枝分かれした新芽の先に花をつけるのがボタンです。前述の慣用句は、これらの花の咲き方を見立てたものとも言われます。

 草と木であれば当然ながら成長の速度も異なることは容易にご想像いただけると思います。ボタンは種から育てると花が咲くまで5~10年かかるとも言われます。そこで園芸界ではより短期間で栽培するために、十分成長したシャクヤクの根にボタンの枝を接ぎ木する方法がとられます。園芸店で購入できるボタンの苗木は大抵この接ぎ木で育てられたものです。ですからこまめにお世話をしてあげないと、「ボタンを育てていたつもりが綺麗なシャクヤクの花が咲きました」ということも珍しくありません。

 薬用の場合には接ぎ木からボタンの自根を発根させて栽培しますが、生薬用に栽培されるボタンやシャクヤクの畑では、美しい花を咲かせる前につぼみをすべて摘み取ってしまいます。充実した根を育てるための大切な過程です。

 漢方ではシャクヤクの根を芍薬(しゃくやく)として補血、止痛、抗炎症薬などに用います。一般的には根の外皮を残した赤芍(せきしゃく)と、外皮を取り除いた白芍(びゃくしゃく)に分けられ、現在日本の市場で主に流通しているのは白芍です。

 

 

 一方のボタンは根皮を牡丹皮(ぼたんぴ)として女性の漢方によく用います。血のめぐりを良くし、熱をとる作用があります。
 属名のPaeoniaはギリシャ神話に登場する医の神「Paeon」に由来しており、西洋の人々にも古くから薬用植物として親しまれていたことがうかがい知れます。

 

 徳島県には、西日本有数の産地としてシャクヤクのお花を栽培している地域があります。主に京阪神に向けて出荷されているそうですが、毎年母の日が近づく最盛期の頃には地元のニュースで報道されているのを目にします。最近は様々な色や種類のお花がありますが、シャクヤクは1輪でも豪華で華やかなので、花束の贈り物の際には検討してみてはいかがでしょうか。

シャクヤクの花。ただいま開花中です。
(当院ヘルスパーク前にて撮影)

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