先日の第2回膠原病・リウマチ教室にご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。この度は薬剤課職員も皆さまの前で講演させていただいたほか、当院の漢方啓発部門(※非公認部署です)としてオリジナルのお茶の提供等お手伝いいたしました。
皆さまからご好評を博しました今回のお茶は、ナツメやショウガなどご家庭でも比較的入手の容易な生薬を中心にブレンドしたものです。詳細はまたどこかの機会でご紹介できればと思います。ご協力賜りました皆さまには心よりお礼申し上げます。
当院薬剤課では、今後も漢方薬・生薬をより身近に親しんでいただくため、さまざまな啓発活動に取り組んでまいります。
さて、早いもので2024年もあっと言う間に3か月が過ぎようとしておりますが、本日は今年の干支である「辰」にちなんだ植物をご紹介します。
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和名:ジャノヒゲ
学名:Ophiopogon japonicus (Thunb.) Ker-Gawl.
生薬名:麦門冬(バクモンドウ)
キジカクシ科ジャノヒゲ属に分類される単子葉植物。
(日本薬局方では旧分類のユリ科にて収載)
日本各地に自生する常緑の多年草。初夏に淡紫色~白色の花を咲かせる。
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ジャノヒゲは地下に匍匐枝(ストロン)を出して広がり、細長い葉が地面を覆うように生えるため、庭や公園のグラウンドカバーとしてもよく見かける植物です。その葉の様子から別名リュウノヒゲとも呼ばれています。
常緑の葉に覆われて目立ちにくいですが、秋から冬にかけて直径7~8mmほどの綺麗な青い実をつけます。これは果実のように見えますが実際は種子にあたり、表面の青い皮(種皮)をとり去った半透明の胚乳部はスーパーボールのようによく弾みます。
漢方では根の肥大部を生薬の麦門冬(バクモンドウ)として用います。肺を潤し熱をとり、乾いた咳を和らげる作用があり、麦門冬湯などに含まれています。
ジャノヒゲを含むキジカクシ科(Asparagaceae:クサスギカズラ科と呼ぶこともある)植物の多くはもともとユリ科に含まれていましたが、現在はキジカクシ科としていくつかの亜科に分けられ、およそ2500種もの仲間が存在します。科名にもなっているキジカクシ(雉隠:A. schoberioides)は日本にも自生していますが、私たちになじみが深いのはヨーロッパ原産のオランダキジカクシ(A. officinalis)つまりアスパラガスのほうかもしれません。キジカクシもオランダキジカクシも茎、特に柔らかい若芽の部分が食用になります。
また、同じキジカクシ科植物で麦門冬とよく似た生薬としてクサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)の根を用いる天門冬(テンモンドウ)があります。何やら思わず鼻をつまんでしまいそうな名前の植物ですが、匂いは特に関係ありません。漢字では草杉蔓と書き表し、葉が杉に似たつる性の草本植物なのでこのような名がつけられています。
分類図にもお示ししたように、クサスギカズラ(天門冬)はどちらかと言うとアスパラガスに近い仲間でジャノヒゲ(麦門冬)とは属が異なりますが、生薬としては類似の作用をもっています。清肺湯や滋陰降火湯のように、麦門冬と天門冬の両方を含んだ方剤もあります。
≪身近に観察できるキジカクシ科植物≫
ジャノヒゲの葉と種子。果皮が落ちてむき出しになった種子は秋から冬にかけて色を変え、熟すと美しい瑠璃色になる。
こちらはノシラン。
ジャノヒゲと同じく青っぽい実をつけるが全体的にとても大きい。花は白。ランの仲間ではなく歴としたキジカクシ科植物。
ヤブラン(リリオペ)
実が黒色なので見分けやすい。大葉麦門冬として麦門冬と同様に用いられることがある。花は紫。ジャノヒゲ属のオオバジャノヒゲとは別の植物。
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公園の花壇や植え込みの脇など、意識して見てみるとさまざまな場所で遭遇するジャノヒゲの仲間たち。お花見日和のお散歩はついつい上ばかり見上げがちですが、たまには地面を彩るグリーンを観察してみるのもまた一興かもしれません。