少しずつ暖かい日が増えて参りました。新年度、新しい環境に身を置かれている皆様にも、これまでと変わらぬ場所で頑張っておられる皆様にも、この春が優しい季節でありますよう心よりお祈り申し上げます。
さて、日本で春の訪れを教えてくれる植物にはさまざまなものがありますが、今号は地元徳島にも縁の深いモクレン科植物をご紹介いたします。
和名:コブシ
学名:Magnolia kobus
生薬名:辛夷(シンイ)
モクレン科モクレン属の落葉高木。原産地は日本(北海道、本州、九州)および済州島。
花期は3月~4月。花が咲く前のつぼみを生薬の辛夷(シンイ)として用いる。
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早咲きの桜が咲き始めるのと同じ頃、白い大きな花を枝いっぱいに咲かせたハクモクレンの木をご覧になったことはあるでしょうか。ハクモクレンとコブシはとてもよく似た花をつけますが、違いは花の大きさと開き方です。ハクモクレンは花びらが開き切らずに上を向いて咲きますが、一方のコブシはハクモクレンよりやや小さく、花びらが完全に開き切った形で花を咲かせます。
これらのつぼみを生薬として用いるのが「辛夷」です。日本薬局方ではコブシ、ハクモクレンを含む5種のモクレン科植物のつぼみを生薬の辛夷として規定しています。字にある通り味は辛く、肺を温める作用があります。主に鼻炎や蓄膿などの鼻症状に用いられることが多い生薬です。漢方では葛根湯加川芎辛夷や辛夷清肺湯などに使用されています。
日本で辛夷と言うと主にコブシを指しますが、中国ではモクレンを辛夷と呼び、コブシのことは日本辛夷として呼び分けることもあります。非常にややこしいのですが、日本語のモクレンは一般的に紫色の花が咲く別名シモクレン(紫木蓮)のことで、ハクモクレンとも別の種とされており、日本薬局方の辛夷に規定されている5種の植物の中にも含まれていません。
そんな日本古来の在来種の顔をしたコブシと言う植物、ここまでのご紹介で既にお気づきの方もおられるかと思いますが、上述のように国内での分布は北海道、本州、九州で、四国にはほぼ自生していないようなのです。徳島県にも野生のコブシは存在しないと考えられています。しかし、今から約80年前の1948年のことです。徳島県の相生町(当時)でたった1本だけ、コブシにとてもよく似た植物がみつかったのです。調査の結果、この植物は種子を作ることができない3倍体であることがわかり「コブシモドキ」と名付けられました。どこからどのような経緯で発生したのか今も謎に包まれていますが、近年の研究ではコブシから突然変異的に生じたとされる解析結果が示されています。
野生唯一だった当時の個体は現存しませんが、挿し木によって株分けされた個体が各地で栽培されており、今も花を楽しむことができます。
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各地で桜が満開を迎え、春の行楽シーズンとなりました。季節の変わり目は1日の寒暖差も大きく、毎朝着るものに悩む時期でもあります。羽織物などを上手に活用し、体調を崩されませんよう皆様どうぞご自愛ください。
本年度も漢方彩々ならびに漢方彩々ぷちシリーズをよろしくお願いいたします。
先日、当院敷地内にも春が顔を出していました☺